ハンガーかけ倒壊事件について
告白しよう。
私たちは6畳ほどの狭いスペースに押し込まれていた。
人口密度が高く、部屋の中は驚くほどあたたかい。
ていうか暑い。しかも空気が悪い。酸素が薄い。
荷物は床におざなりに置かれ、蹴られ、踏まれて
足の踏み場もないほどに散らかっていた。
コートはある人はダンボールの上に、
またある人は書棚に並べられた書類の上のわずかなスペースに押し込んでいて
それらはなだれ落ちないよう細心の注意をはらっておかれていた。
ここではわずかな席とPCを確保するために日々椅子取り合戦が行われる。
負けたものは廊下にたち、ひたすらPCが空くのを待つしかない。
そこに降り立った、たったひとつの希望ーーー
<< HANGA- KAKE >>
そう、それこそがハンガーかけである。
人々はこの希望を信じ組み立てた。
これでこの狭い空間が少しはましになる!
もう、自分のかばんが蹴り飛ばされるのは嫌だ!
自分のコートが床に落ちてほこりだらけになるのは我慢ならないー・・!!
その日も私たちは恒例の質問の嵐とたまの罵声に疲れ、ワークスペースに戻ってきた。へとへとだった。だがいつもとどこか違っていた。
そこには笑顔があった。
撤去されたダンボール。
綺麗にかけられたコートたち。
丁寧に並べられたカバン・・。
少し広くなったワークスペースに、誰もが感嘆の声をあげた。
これがおとといのことである。
だがこの幸せも、長くは続かなかったー・・・。
今日未明のこと。
現場に居合わせた先輩Tは、こう語る。
「突然後ろのほうからメキメキって音がしたんや。
なんやろと思って振り返ったら・・ズズズーっていって、倒壊したんや。
あっちゅう間やった。あんなに頑張って組み立てたのに・・」
倒壊ー。
<< T O U K A I >>
倒壊した。
私たちの唯一の希望、ハンガーかけは
ものの2日で再起不能になってしまったのだ。
思えばハンガーかけが組み立てられたその日、
昼ごろと夕方では明らかに高さが違っていた。
あれは、前兆だったのだ。
あの日並べられたかばんは30を超えていた。
おそらくコートも同じくらいあっただろう。
コートの重みに、ハンガーかけが耐えられなかったのだ。
ハンガーかけ亡き後、そこには大量のコートが
床に並べられたかばんの上に折り重なるようにして倒れていた。
夢破れてハンガーあり。
現場に残されたポールとそこにひっかけられた大量のハンガーたちが
この事件の残念さを今に伝えている。